● 語録


とにかくこの人は、人の悪口を言わせたら天下一品なのだ。
タダの悪口じゃないぞ。
その発想の豊かさと人物観察眼の鋭さあっての「批評」である。
どんなものか読んでもらうのが手っ取り早いのでいくつか紹介しておこう。


(1) 『ズームインの徳光和夫の方は顔のことを言ってはいけないと思うがお千代、お花の顔(昔の小学校の読本に出て来た耳の前にお河童位の長さの髪を切り下げ、あとはひっつめて頂辺にお煙草盆のようなものをのっけていて母親が、「お千代や、魚屋が来たからこのお皿を持って行ってお刺身を作って貰っておいで」「はいお母様」のお千代の顔。丸谷才一もこの顔だ)つまりいやな顔でいやな腕を振り廻して「ズーム、イン」とわめかれると朝の気分がこわれるのだ。』(ドッキリチャンネル)


「ズームイン朝」をやっていた頃の徳光和夫氏に対する批評である。
氏には申し訳ないが笑ってしまった。
「お千代」「お花」の顔というのはすごい比喩だ。
すごい上に(かっこ)が長い。
これも森茉莉の特徴である。
(かっこ)の中だけ見ると「お千代」は良い子のようだが、女中にかしずかれて育った森茉莉にとっては「下町の子」という感じなのだろう。


(2) 『山口百恵の白い歯を見せる笑いには、私の目で見る限りでは品がない。たとえば、山口百恵の微笑いは、コンソメ・ロワイヤル(王室風のコンソメ)を一匙唇に運んで、隣席の人に微笑いかける微笑いではなくて、氷水の小豆かイチゴ、レモンスイ、なぞをすぐ曲がる、あのへなへなのアルミニウムの匙で一匙しゃくって口に入れ、隣で、汗拭きの手拭い(米屋か魚屋のお中元の)を畳んで膝にのせ、彼女と並んで氷水を口へ運んでいる婆さんに(おばあちゃん、スーッとするねえ)と微笑いかける微笑いである。』
(ドッキリチャンネル)


無茶苦茶である。
私は山口百恵の微笑がそんなに「品がない」とは思わなかったぞ。
どっちかといえばいつも困ったような、陰のある微笑で、私はそれが好きだったのだ。
森茉莉の目に、そんなに子供らしい微笑いに見えたのなら、それはそれで幸せである。
森茉莉は「贅沢貧乏」で世田谷の上品ぶっている人種は嫌いで、浅草の下町っ子は大好きだと書いたのに、やっぱり下町っ子はキライなのか? 
よくわからない人である。
ちなみに森茉莉が「品のある微笑いをする」と言ったのは司葉子松坂慶子であった。
(うーむ)