● 芦屋での生活

谷崎潤一郎は、昭和9年から11年にかけて、芦屋市に住んでいました。


 「芦屋に住まっていたのは、そんなに長い歳月ではなかったが、私の生涯にとって最も大きな転機となり、又新たに人生をはじめる始点になりました。
谷崎にとりましても同じことが云えましょう。
当時、下宮塚と称えていた土地で生まれ変わったような初心にかえり、身近の人だけで祝言をあげることができました。(中略)


 その想い出深い芦屋市に市長様はじめ皆々様の熱意に溢れる御力によっていみじくも高い出来栄えの記念館の完成を見ましたことは、谷崎も生前に考え及ばなかったことでございましょう。
 今、天空から喜びに満ちた顔が浮かんでまいります。
此の上は永く永く残されて行くことを衷心より願うばかりでございます。」


 −谷崎松子著「蘆辺の夢」(中央公論新社刊)より−