● 作品「血族」より、、、

こういうことを含めて、私の諸性格は、すべて出生のためであり、血のせいだと思っているのではない。
私における欠落感は、廃人同様の豊太郎の孫であるためだとは思っていない。
泣き虫で、小心翼々としていて、臆病で、万事につけて退嬰的で、安穏な生活だけを願っているといったことの全てが、遊廓で生まれ育った母の子のためだと思っているわけではない。
少年時代に、あまりにもひどい貧乏を経験したためだとも思っていない。
冷血動物でありゲジゲジだと言われた、自分ではあまり気のついていなかった性情を、出生と環境のせいにしてしまうつもりもない。

しかし、それが、私の血と全く無関係であるとはどうしても考えられないのである。
私は、あきらかに、容貌だけでなく、その性情において、丑太郎や勇太郎に似ているのである。
すなわち、引込み思案で依頼心が強く、地位を得たときに威張りだすようなところがあるのである。

私は、丑太郎や勇太郎に似て、芝居っ気の強いところがある。
つくづくと、もし、少年時代に苦労するところがなかったら、もっともっと厭味な人間になっていたろうと思う。
お前のような人間は引込んでいろと自分に向って言うことがある。
私の息子は正業についていない。
妹の子供、弟の子供も同様である。
これも血のせいだと思うようなことはないのだけれど、あるとき、突然、出生のことを思い、慄然とするような思いにとらえられることがあるのである。
いまになって、母の最大の教育は、隠していたことにあったと思うことがある。